『それはただの偶然』(自主制作)
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※通販特典として友人で美術家の百瀬文によるエッセイ『植本一子の新刊に寄せて』を同封します。
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いつか別れる日のために
どこまでも一緒に歩いた
わたしたち
自費出版で初めてエッセイ集を作りました。
今年の春に事件に巻き込まれてしまい、かなり苦しい日々を過ごしてきました。
生きることさえ諦めそうになったけれど、書くことはそんな自分を助けてくれました。
夏から秋にかけて書いた7篇と併せて『文學界』『ベストエッセイ2024』に掲載された1篇、少しの詩を載せています。
また、今回「わたしの現在地」というシリーズ名をつけたので、気長に作り続けていけたらと思っています。
ーーー失われてしまったものや、残されたひとたちのことが、ここにはちゃんと書かれているように思います。(柴山浩紀・編集者)
ーーー新刊は、書き手としての一子ベストワークを更新してると思います。エッセイ集として編まれることを意識して書かれたことが、読んでいてもわかったし、あとがきを読んでもなるほどという感じで、移行期/過渡期的だった「愛は時間がかかる」よりも腰の据わった、覚悟みたいなものを感じる本でした。やっぱり日記からエッセイに、というのはきっとすごい難しいハードルで、そこを越えて=いろんなものを手放して、その代わりにエッセイでないと書けないことを書いている。
そして思ったのは、もしかしたらこれは「エッセイスト植本一子」誕生の書であり、同時に、「日記作家植本一子」との決別の書なのではないか、みたいなことでした。もう一子さんは日記を書かない(書けない)んじゃないか。でもそれはまあ自然というか仕方ないというか必然的なもので、一子さんはこれまでも常に、自分の大事なことを書くために最善の方法として日記という形を選んできたのだと思うし、いまはその大事なことを書くために必要な形が変わってきたということなんだと思います。(滝口悠生・小説家)
わたしの現在地(1)
『それはただの偶然』
もくじ
一緒に生きていこうぜ
春
小森さんと私
タトゥーを入れる
それは愛と呼ばれる何か
新しい友達
高橋さんのこと
お葬式のメンバー
ねこのきもち
私たちの本当の終わり
あとがき
植本一子 出版年表
2024年12月1日 初版 第一刷発行
著者 植本一子
装丁 六月
校正 藤本徹
協力 柴山浩紀
印刷 株式会社イニュニック
発行者 植本一子
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植本さんの新作は「わたしの現在地」として銘打たれたシリーズ第一弾のエッセイ集。最近の日記ブームの火付け役かつ牽引者であるわけだが、これまで読んできた身からすれば、日記を経た先にあるエッセイという印象をもった。
一人でいることに耐えられず、常に誰かを求めてしまう。そんな自分の内面と向き合っている様子は近作の『愛は時間がかかる』や『こころはひとりぼっち』で書かれてきたが、本作は植本さんの周辺の人たちへの思いが率直に書かれており、対照的な一冊と言えるだろう。
具体的な描写は避けられているものの、植本さん自身が事件に巻き込まれたことが幾度となく言及されている。事故、事件、病気といった自分のコントロールできない事態に突如巻き込まれる辛さは、本や実体験で分かっているつもりだが、本人にとってどれだけダメージがあるかは他者からはわからない。しかし、そんな中でも表現から伝わるものがあり、「春」という詩で描かれる絶望、虚無感は心の深い部分を刺激された。
精神的に参った状態の植本さんの元に、まるでマーベルのアベンジャーズよろしく皆が集結し、彼女を支える互助の関係性を、内向的な自分としては羨ましく感じた。ご本人は誰かに頼ることを気にされているようだが、そんな風に助けてくれる人がたくさんいる状況は、人間関係が希薄な今の時代において正直想像がつかない。それはひとえにご本人の人望なのだろう。大人になればなるほど、新しい友達を作ることは難しくなるが、植本さんはそのハードルを軽やかに越えて、どんどん関係性を結んでいく。その様子が本作では手に取るようにわかるし、植本さんが植本さんたる所以でもあるのだと思う。それは一人のファンにしか過ぎない私に対する寛大さからも明らかだ。
日記の生活感、それに伴う刹那性が多くの読者を魅了してきた中で、今回のエッセイにおいては視点が落ち着いている。言うなれば、日記はスナップショットの連続で、怒涛のように生活を追いかける、ドキュメンタリー性が極端に高いものだったのに対して、エッセイは日付がなく時間軸が曖昧になることで、構図が決まったポートレートのようで、一種のフィクション性さえまとっている。そこでは植本さんがカメラマンとして培ってきた、他者に対する眼差しの鋭さ、ショットの強さが存分に発揮されている。
冒頭で述べたとおり、その眼差しを駆使した人物評が多いのが本作の特徴だ。自分のことが誰かに文字で書かれ、残っていく。書く/書かれる関係性について改めて考えさせられる。書くことで救われていた時代から、書かなくても残ることもあるという考え方の変化は、写実主義の傑作『かなわない』で知った身からすると隔世の感があった。また、書かれた側からの率直なアンサーが載っている点もスリリングで、ハイライトの一つだろう。
本書で紹介される人たちは、植本さんの魅力ある文章だからこそ、誰も会ったことがないにも関わらず、生きている様がまじまじと伝わってくる。特に終盤の元パートナーとの関係性の変化とある種の終結まで、思考と現実がシームレスに描かれており、これまでのことも思い出されて、壮大な恋愛ドラマのエンディングを見ているようだった。このエッセイから次はどんな風景を見せてくれるのか、毎度読み終わる度に期待と不安が入り混じる植本さんの著作からはいつも目が離せない。
Yamada Keisuke(ブロガー・ポッドキャスター)
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